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市民の皆様へ 〜易しいガスのお話〜 第3話 酸素(O2



 「酸素(O2)」は、市民の皆様誰でもご存知の気体です。しかしながら、あまりに身近な存在であるために、日々の呼吸を含めて無意識に利用している場合が多いと思います。
ここでは、「酸素ガス」の他のガスには無い稀有な利便性と、高濃度の「酸素ガス」を使用する時における安全な取扱いについてお話致します。

第三話 酸素(O2)

1. 酸素の起源:

 「酸素ガス」は、気体として現在の空気中に21%含まれています。大多数の動物(肉眼で見えない微生物を含)はこの大気中の酸素を利用して、生命活動を維持しています。
 地球上の「酸素ガス」の起源は、原始地球においては嫌気生菌(微生物)による光合成、その次の時代以降現在までは植物による光合成による生成です。
 ですから、大気中の「酸素ガス」の源は、光合成の原料である炭酸ガス(CO2)中の酸素分子となります。
 近時は地球温暖化における悪影響物質の一つとして、炭酸ガスが悪者扱いされていますが、「酸素ガス」の側から見ると地球誕生の頃よりの最大の供給源であり先輩ですので、地球上の大気の循環を短期間で急激に崩すことなく、「酸素ガス」ひいては動植物と共生していきたいものです。


2. 大気中の酸素の利用:

 大気中の「酸素ガス」は直接的に陸上動物の呼吸に利用され、「酸素ガス」が淡水又は海水に溶解した溶存酸素が水棲動物(微生物を含)の呼吸に利用されています。

 スキューバダイビング等において、空気を充填したボンベより空気を供給するマスク等の呼吸補助具が使用されています。これらの呼吸の際には、前述の炭酸ガスがマスクの外に吐き出されます。
 また、寒い日のストーブ等の暖房では、大気中の「酸素ガス」独特の支燃性(相手を酸化して燃焼させる性質)により、木材、綿布、紙、木炭、石灰、石油の燃焼に利用されています。
 これらの燃焼の際に、「酸素ガス」は木材、石油等の生物由来炭素と結合して前述の炭酸ガスが発生します。これが現代の石油社会における炭酸ガス増加の主因となっています。


3. 高濃度酸素の利用:

 「酸素ガス」の工業的利用の際には、呼吸効率、燃焼効率、化学反応速度等を格段に向上させるために、大気中の21%より濃度を高めた高濃度酸素(99.7%〜30%)が利用されています。

  例えば、次の例があります。
3-1.高濃度酸素療法: 病院における効率的酸素吸入療法
呼吸困難患者、未熟児、衰弱者の呼吸維持
高高度飛行航空機、登山、潜水時の呼吸維持
スポーツマンの事後回復促進
3-2.高温燃焼炉: 電気炉等における鉄スクラップの急速溶解
3-3.溶接溶断作業: アセチレンガス等とのノズル混合による鉄鋼材の溶接・溶断・加熱(鉄鋼でも瞬時に溶解する)
3-4.ロケット噴射剤: 液化水素等との爆発的混合燃焼による推進力
3-5.化学合成原料: エチレンと直接合成する酸化エチレンの製造等


4. 家庭における高濃度酸素の安全な取扱い:

 特に、自宅療法として家庭内で高濃度酸素を吸引用に使用する際には、酸素供給の方式・種類毎に、次の注意を払って安全に使用して下さい。

4-1.共 通 事 項: ☆「禁油」
 使用されている圧力調整器、圧力計等も酸素専用の製品で、「禁油」処理がなされています。
 万一、油脂類(食用油、てんぷら油を含)と酸素が接触すると、特定の条件が揃ったときに急激に発火させるので、火傷や火災の原因となります。

☆「火気厳禁」
 煙草の喫煙は最悪の行為です。容器、酸素供給装置、チューブの周囲は「火気厳禁」です。
 万一、呼吸用のチューブ、カニューラに着火すると、内部の酸素で急速に燃焼が拡大し、導火線状態になり火傷や火災の原因となります。

☆「漏洩禁止」
 在宅療法での鼻先部を除き、ボンベ、供給装置、接続継手及びチューブは「漏洩禁止」です。
 もし、酸素ボンベ、供給装置、チューブ及びそれらの接続部分から酸素が漏洩すると、直近に火気がある場合には火災の原因となります。漏れの検査には、洗剤等の発泡剤が使用できます。
4-2.酸素ボンベ方式: ☆ボンベには高圧の酸素が充填されていますので、圧力調整器の付け替え時には、酸素ボンベの元弁を確実に閉止した後に行い、ボンベ交換作業時の高圧酸素ガスの噴出を防ぐ。

☆吸入に使用していない時は、酸素ボンベの元弁を閉止して、居室内への垂れ流しを防ぐ。

☆酸素ボンベの転倒を防止するため、キャリアーを用いるか又はチェーン等で固定する。
4-3.PSA装置方式: ☆装置出口の酸素濃度、流量が適正かを確認する。

☆吸入に使用していない時は、装置の電源をOFFとして停止する。装置は6-2参照
4-4.液化酸素容器方式: ☆魔法瓶型金属容器内に在る液化酸素それ自身の沸点は-183°Cの超低温のため、漏れた場合は凍傷になるので、絶対に素手で触ってはならない。
製造方法は6-1参照


5. 高濃度酸素の産業利用時の危険性、有害性:

 「酸素ガス」のうち工業的に製造される高濃度酸素ガスは、前述のごとく人間社会にとって極めて有用なものですが、その反面、空気と異なり取扱いを間違うと危険性、有害性が潜んで居ますので、十分な注意をお願いします。


  例えば、次の例があります。
5-1.高濃度酸素療法: 高濃度酸素雰囲気医療機器における爆発的火災
未熟児網膜症の発生(病院で対応策を講じる)
5-2.高温燃焼炉: 炉外施設に至るまでの着火・延焼
5-3.溶接溶断作業: アセチレンガス配管・機器への酸素の逆流着火
5-4.液化酸素使用時: CE貯槽、LGC容器への接続・連結時に素手で扱うとひどい凍傷となる。


6. 高濃度酸素の工業的製法

 中学校等の実験では、過酸化水素を原料に二酸化マンガン触媒で分解して「酸素ガス」を発生させているが、工業的には空気を原料として、その大部分を占める窒素ガス等と分離して「酸素ガス」を製造している。


  工業的空気分離方法として、次の例があります。
6-1.深冷分離法: 高純度酸素を製造する主たる方法である。

空気を液化して、窒素と酸素の沸点の違いを利用して精留し、液化酸素を製造する。
【液化酸素(沸点-183°C、純度99.7%)】

工業製品としては、圧縮酸素ボンベより大量輸送、大量貯蔵面で有利な為、液化酸素が主流。
液化酸素は極低温で、大量であるためにボンベで使用する場合より上記5の危険性が増します。
ボンベには、液化酸素を気化させて、高圧力で「酸素ガス」を充填してあります。
6-2.PSA分離法: 窒素を吸着するモレキュラーシーブスを充填した吸着塔を使用して、中・高濃度の「酸素ガス」を分離して製造する。純度は6-1よりは低い。
同じ方法の小型装置が、上記4の自宅療法用として使用されている。
6-3.水の電気分解法: 水を電気分解して水素を製造する際の対極ガスとして「酸素ガス」が発生する。


7. 終わりに

「酸素ガス」は上手に利用すれば、人間にとってこれほど身近で有用なガスは他にありません。
その反面、ひとたび取扱いを間違えると、見た目以上の災害を及ぼす能力を秘めたガスですので、優しく扱って安全に使用して下さい。


平成22年03月08日
社団法人 大阪府高圧ガス安全協会
文責 皆川 勇



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